てにをは紐鏡

てらし見よ本末むすふ「ひも鏡」
みくさにうつるちゝの言葉を
こそ徒(タヾ)
けれ
べけれべきべし
なけれなきなし
のどけゝれのどけきのどけし
寒けれさむきさむし
うけれうきうし
つらけれつらきつらし
よけれよきよし
わろけれわろきわろし
深けれふかきふかし
淺けれあさきあさし
たかけれたかきたかし
しるけれしるきしるし
しけれしき
嬉しけれうれしきうれし
たのしけれたのしきたのし
戀しけれ戀しきこひし
悲しけれかなしきかなし
わびしけれわびしきわびし
をしけれをしきをし
恨しけれ恨しきうらめし
苦しけれくるしきくるし
頼しけれ頼しきたのもし
恥かしけれはづかししきはづかし
さびしけれさびしきさびし
久しけれ久しきひさし
しか
有しかありしありき
なかりしかなかりしなかりき
ざりしかざりしざりき
たりしかたりしたりき
見しか見し見き
見えしか見えし見えき
聞しかきゝし聞き
きこえしか聞えし聞えき
しりしかしりししりき
思ひしか思ひしおもひき
いひしかいひしいひき
うかりしかうかりしうかりき
にしにき
なりにしなりにき
たえにしたえにき
ちりにしちりにき
しりにししりにき
くれにしくれにき
かへりにしかへりにき
てしてき
いひてしいひてき
思ひてし思ひてき
そめてしそめてき
かけてしかけてき
あれ有ルあり
をれ居ルをり
せれせるせり
なれなるなり
たれたるたり
十一けれけるけり
十二めれめるめり
十三けれけるけり
きけれ聞るきけり
ゆけれ行るゆけり
さけれ咲るさけり
しけれ敷るしけり
いけれ生るいけり
かけれ書るかけり
十四せれせるせり
なせれなせるなせり
やどせれやどせるやどせり
のこせれ残せるこのせり
ふせれふせるふせり
うつせれうつせるうつせり
てらせれてらせるてらせり
十五てれてるてり
たてれ立るたてり
まてれ待るまてり
もてれ持るもてり
かてれ勝るかてり
うてれ打るうてり
はなてれ放テるはなてり
十六へれへるへり
いへれいへるいへり
おもへれ思へるおもへり
とへれ問へるとへり
にほへれ匂へるにほへり
あへれあへるあへり
ならへれならへるならへり
十七めれめるめり
すめれすめるすめり
しづめれしづめるしづめり
うめれ生メるうめり
くめれ汲るくめり
すゝめれすゝめるすゝめり
しぼめれしぼめるしぼめり
十八れゝれるれり
なれゝなれるなれり
つもれゝつもれるつもれり
ちれゝちれるちれり
こもれゝこもれるこもれり
まされゝまされるまされり
ふれゝふれるふれり
十九ぬれぬる
なりぬれ成ぬるなりぬ
たえぬれ絶ぬるたえぬ
知ぬれしりぬるしりぬ
きぬれきぬる來ぬ
惑ひぬれまどひぬるまどひぬ
かへりぬれかへりぬるかへりぬ
二十つれつる
いひつれいひつるいひつ
見つれ見つる見つ
きゝつれ聞つるきゝつ
思ひつれ思ひつる思ひつ
くらしつれくらしつるくらしつ
なかりつれなかりつるなかりつ
廿一すれするす 爲
くれくるく 來
うれうるう 得
ぬれぬるぬ 寢
ふれふるふ 經
廿二すれする
匂はすれ匂はするにほはす
きすれ着するきす
みすれ見する見す
しらすれしらするしらす
思はすれ思はする思はす
きかすれきかするきかす
廿三るれるゝ
しらるれしらるゝしらる
いはるれいはるゝいはる
またるれまたるゝまたる
きかるれきかるゝきかる
とはるれとはるゝとはる
忘らるれ忘らるゝわすらる
廿四くれくる
とくれとくる○とく
つゞくれつゞくる○つゞく
あぐれあぐるあぐ
かくれかくるかく
たむくれたむくるたむく
あくれあくるあく
廿五すれする
まかすれまかするまかす
よすれよするよす
おこすれおこするおこす
やすれやするやす
のすれのするのす
うすれうするうす
廿六つれつる
たつれたつる○たつ
いづれいづるいづ
すつれすつるすつ
めづれめづるめづ
はづれはづるはづ
おつれおつるおつ
廿七ぬれぬる
いぬれいぬるいぬ
しぬれしぬるしぬ
かさぬれかさぬるかさぬ
かぬれかぬるかぬ
たづぬれ尋ぬるたづぬ
つかぬれつかぬるつかぬ
廿八ふれふる
そふれそふる○そふ
こふれこふるこふ
おふれおふるおふ
とゝのふれとゝのふるとゝのふ
ながらふれながらふるながらふ
かぞふれかぞふるかぞふ
廿九むれむる
たのむれたのむる○たのむ
ながむれながむるながむ
そむれそむるそむ
とゞむれとゞむるとゞむ
恨むれうらむるうらむ
さむれさむるさむ
三十ゆれゆる
見ゆれ見ゆる見ゆ
聞ゆれ聞ゆるきこゆ
さかゆれさかゆるさかゆ
きゆれきゆるきゆ
たゆれたゆるたゆ
おもほゆれおもほゆるおもほゆ
卅一るれるゝ
ながるれながるゝながる
かくるれかくるゝかくる
みだるれみだるゝみだる
しぐるれしぐるゝしぐる
やつるれやつるゝやつる
しをるれしをるゝしをる
卅二うれうる
うゝれうゝるうゝ 植
うゝれうゝるうゝ 飢
すうれすうるすう 居
卅三
きけきく
ゆけゆく
なく
さけさく
とけ○とく
こげこぐ
やく
ひけひく
卅四
なせなす
かす
のこせのこす
うつせうつす
かくせかくす
わたす
やどせやどす
ちらせちらす
卅五
たて○たつ
まてまつ
うつ
かてかつ
もつ
わかてわかつ
こぼてこぼつ
はなてはなつ
卅六
いへいふ
おもへおもふ
あふ
ならへならふ
いとへいとふ
はらふ
そへ○そふ
にほへにほふ
卅七
しづめしづむ
すめすむ
かなしめかなしむ
すゞむ
くめくむ
いむ
つゝめつゝむ
たのしめたのしむ
卅八
見れ見る
しれしる
よる
かへれかへる
ちぎれちぎる
ふる
ちれちる
つもれつもる
卅九
見め見ん
きかめきかん
いはめいはん
せめせん
思はめ思はん
しらめしらん
四十らめらん
四一けめけん
四二なめなん
四三てめてん
「も」
こそ ぞ や にくらぶれば は も は輕き故に重なるときは こそ ぞ や の格にしたがふ也
「徒(タヾ)」
上に こそ ぞ の や か は も などいふ辭のなきを今かりに 徒(タヾ) といふ
「の」
此 の は「春の日「秋の夜 などいふ常の の とはこと也「鶯のなく「花のちるらん「月のかくるゝ「人のつれなき「袖のかはかぬ など下の用ノ語を意の及ぶ の にて句をへだてゝも下へかゝるなり 又「君が來まさぬ などいふ がも此 の に同じ
○ の は輕き故に こそ とかさなる時は こそ の格にしたがふ也
「や」
いはゆるうたがひの や なり
「何」
なに など なぞ いかに いかで いかゞ いつ いづく いづれ いく たれ たが の類皆同じ
一 二 三 四 五 の段
此五段の し と き との留りをよくわきまふべし たがひにまがひやすきてにをは也 古への哥はすべて此格のたがへる事はなきを近代の哥には此格にかなはぬが多きはみなあやまり也
此 けれ しけれ は常の けれ とは別にて けり ける と轉ずる事なし
○ 此五段のうち上二段は現在 下三段は過去にて し と き と入かはる事てにをはの肝要にて言語の自然の妙なり
六 の段
此段は不の轉用也 じ は ず の將然(將ニ然ントスル)ことばにて留りの格は ず におなじ
七 の段
をり ととまりたる例は古今十九小町が哥に「心やけをり 此外哥にも文にも猶あり
十三 十四 十五 十六 十七 十八 の段
此六段は第四の韻より り る れ とつゞきて留るなり 萬葉に此類の詞をば有ノ字をそへて 聞有(キケリ) 成有(ナセリ) 立有(タテリ) とやうに出たり
○ 凡て り る れ 十二段の中に せり せる せれ けり ける けれ めり める めれ 各二ツ有上なるは「殿づくりせり「袖はぬれけり「秋もいぬめり などのたぐひにて下なると別なり
廿二 の段
此 す は令(シム)にて令匂(ニホハス) 令着(キス) などなり
廿三 の段
此 る は所(ラル)にて所知(シラル) 所言(イハル) などなり
廿四 廿五 廿六 廿七 廿八 廿九 三十 卅一 卅二 の段
此九段のうち詞の首に○をしるすはつかひやうによりて轉ずる格のかはる詞也 たとへば解は自解(ミ解ル)こゝろの時は「とく「とくる「とくれ と留り解物(物ヲ解ク)こゝろの時は「とく「とけ と留る 續は自續(ミ續ク)こゝろの時は「つゞく「つゞけ 續物(物ヲ續クル)こゝろの時は「つゞく「つゞくる「つゞくれ と留る 立は自立(ミ立ツ)ときは「たつ「たて 立物(物ヲ立ル)ときは「たつ「たつる「たつれ と留る 添は自添(ミ添フ)ときは「そふ「そへ 添物(物ヲ添ル)ときは「そふ「そふる「そふれ と留る 頼は我頼人(我カ人ヲ頼ム)こゝろの時は「たのむ「たのめ と留り人令我頼(人我ヲシテ頼マシムル)こゝろの時は「たのむ「たのむる「たのむれ と留る也 すべてこれらのわきまへ有べし 猶くはしくは別にしるす
卅二 の段
植を「うへ「うふ 飢を「うえ「うゆ 居を「すへ「すふ とかくはかなづかひの誤也 又榮を「さかへ「さかふ とかくもわろし
卅三 卅四 卅五 卅六 卅七 卅八 の段
上の九段の詞とこゝの六段の詞と其格混じやすし 此圖を見て轉用の差別ある事をよく考へてわきまふべき也

此書は上のてにをはに從ひてけり ける けれ あるは らん らめ などやうに留(トマ)りもうごくかぎりをあげて其定れる格をさとさんと也 そは留りのみならず詞のきるゝ所はいづくにてもみな同じ格ぞ さて此外に かな つゝ まし らし のたぐひのうごかぬ辭はしるさず されどそれも定れる格は有也 又こゝにしるせる辭の中にも此定れる格をはなれて用たる變格もあり たとへば「いくよねざめぬすまの關處 とよめるなど上に いく とあれば必 ぬる とむすぶ格なるを ぬ とむすべるたぐひ也 かうやうの類はたいと多かれど今くはしくはつくしがたし すべててにをはの猶くはしき事は吾黨(トモ)棟隆が三集類韻又おのがかける言葉の玉の緒といふ物になんいへる

明和八年卯十月
松坂 本居宣長

参考資料

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