詞の玉緒 序文

詞玉緒の序

冬ごもり今を春へとのどかなる御代のめぐみに。さくや此言葉の花もにほひまさりて。いとやむごとなきころほひになむありける。しかはあれども。影さへ見ゆる山のゐの。心あさきうひまなびのほどは。なほなにくれとたどゝゝしきすぢおほかる中に。てにをは のとゝのへなむ。くらぶの山路やみにこゆらむやうにて。ことにみな人の思ひなやむわざなりける。まことに此いさゝかもたがへるふしあるは。心ことばゝ思ひえたるも。猶よきゝぬのきざまあしかるこゝちして。いともこちなく見ゆめるを。又かすかなるたゞ一もじの心しらひに。難波堀江のみをつくし。深きいたりも見えしられて。あはれさもおかしさもこよなくまさるわざなンめり。こゝにわが師の君は。おくふかきこと葉の繁路を。たゆみなくわけいりて。武さし野のかぎりよし野山のはてまでも。いたらぬくまなくあきらめたまへる心に。もとより此ことわりを深く思ひとり給ひて。年ごろいかで此くらぶ山。うめの花にほはせてしがなと。うねはふまめのまめやかにおもほしわたりけるまゝに。さいつころまづ紐鏡といふいさゝかなる一まきをつゞりて。世にひろめたまへりしを。なほつまびらかにとて。きよきなぎさの玉やかひやとひろひあつめ。いづみの杣のしげき宮木かずおほく引いでゝ。秋の花野のいろゝゝにつみわけ。はまちどりのあとさだかになむかきつらね給ひける。此ふみ世にひろまりて。ことのこゝろをわきまへしりなば。てにをはのとゝのへはしげ絲のことしけくとも。まよふすぢなく。とけがたきふしも世になからむと。いまよりおもふうれしさは。ふみの名におふ玉のをの。ながくひさしくつたはりて。道のしるべとなりなゝむと。かのかげさへ見ゆるおのれらが心にしも。おしこめがたくなほえあらで。ちからなきかへるのなまゝゝの人まねを。ほねなきみゝずのみゝずがきにかきしるしつ。

言葉の玉のをの序

此ふみの名に[全集本「よ」トアリ]。玉の緒としもつけゝるよしは。人の身のよそひにも。萬の物のかざりにも。あがれりし世には。高きいやしきほどゝゝに。みな玉をなむものして。いみしきたからのおやとはしければ。何事のうへにも。みじかし長し。たゆみだるなどいはむとてのたづきにも。まづそれが、をゝ引かけ。うつせみのよの命をさへなん。たとへていひける。さるはいとかぎりなくめでたき物のかざりならむにも。ぬきつらねたらんさまにしたがひてなむ。いま一きはの光もそはりぬべく。またはえなくきえても見えぬべければ。此緒こそげにいとなのめなるまじき物には有けれ。ましてすぢなくみだれもし。絶もしなむには。いかにめでたく共。そのかざりいたづらならじやは。ことの葉の玉のよそひはた。此ぬきつらぬるてにをはからなん。ともかくもあンめるわざなれば。又よそへてなむ。

安永八年十二月六日
本居宣長

詞の玉緒跋

あやしかも。くしびなるかも。言(コト)たまのさちはもよ。畏(カシコ)きや天照(アマテラス)大御神の。きこしめしめで賜ひて。さしこもらしし天(アメ)の石屋戸(イハヤド)を出(イデ)賜ひて。常夜(トコヨ)ゆきけむ此世の。またとこしへに照明(テリアカ)れりけるも。いかし矛(ボコ)中とりもたす中臣(ナカトミ)の。天津告刀(ノリト)のふとのり詞(コト)の。美麗(ウルハ)しかりしによりけらずや。こゝを思へば。言の葉のとゝのへよ。そらかぞふおほにし思ひはなつべきならぬを。ちはやぶる何(イヅ)れの神の御心(ミココロ)なりけむ。中つ代の末(スヱ)つ方。天(アメ)の下みだれにみだれて。よろづのわざも。秋草(アキクサ)のおとろへゆくまにゝゝ。此とゝのへはた緒だえし玉のみだれそめては。其緒又つぎ。貫(ヌキ)あらたむる人もなくて。あまたのよゝを經(ヘ)にけるに。時のゆければ今はよ又。天の下に鞆(トモ)の音も聞(キコ)えず。弓(ユ)はずのさわきもなくなりはてて。萬代までに。動くべからぬうらやすくにとしづまりて。咲花のにほふがごとく。榮ゆくこの大御世になも。春霞立かへりにたれば。萬のわざも。又いにしへに立かへるべき時かたまけぬるかも。吾(ワガ)鈴(スズ)の屋(ヤ)の本居ノ大人い。あらたまの年まねくいそしみまして。眞男鹿(マヲシカ)の和毛(ニコゲ)の眞筆(マフデ)を。處女(ヲトメ)のたゝりとかたく取(トラ)して。かきかぞふ三條(ミツヲ)のこの玉のをを。くるゝ ゝゝによりとゝのへて。此七(ナナ)まきになも卷(マキ)とゝのへ賜ひける。かく此度よりとゝのへ。まきとゝのへ賜ひつれば。今より後は。いかしの御世の靜(シヅ)まりとともに。よの人のことばの玉のいほつつどひも。ゆきあひのまよひなく。をだえのみだれもさねなからむと。綾(アヤ)にむかしき此書なるかも。かく云(イフ)は。このうしに物ならへる。

参考資料

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