下官集

假名遣部分拔粹

一、嫌文字事

他人不然又先達強無此事、只愚意分別之極[タル]僻事也。親疎老少一人無同心之人最所謂道理[ナリ]。況且當世之人所書文字之狼藉過于古人之所用來、心中[ニ]恨[トス]之[ヲ]。

緒之音 を[ちりぬるを書也仍私用之]

(人丸秘抄にはこの末に「をやみ」「まつを 夏狩人」「をとめ」の三語を加ふ。)

尾之音 お[うゐのおくやま書之故也]

(人丸秘抄にはこの末に「おとこ」「おさ」「おとうと 弟」「おかしき」「おかむ」の五語あり。)

(人丸秘抄にはこの末に「いりえ」あり。)

近代人多え(三藐院本ゑ)とかく

古人所詠歌(歌字三藐院本による)あしまよふえを以て可爲證。

(人丸秘抄には「栢」なくして他に「としをへて」「いへ」「いろへ」「やへむくら」「さへつる」「すへて」「なへに」の七語を所々に加ふ。)

(人丸秘抄には「詠」「産穢」なくして末に「つゑ」あり。)

(人丸秘抄には「おもひ」「あひ見ぬ」をかき、外に「まとひ」「かよひ」「あふひ草」「したひ」の四語を加ふ。)

(人丸秘抄には外に「色にそてぬへき」「はすのはゐ」「よひ」「くれなゐ」「ふすゐ」の五語を加ふ。)

(人丸秘抄には「いにしへ」「かゝみのたい」「たい」「おいぬれは」「たぬれは」の五語を加ふ。)

右此事は非師説、只發自愚意。見舊[キ]草子了見之。

内容比較

下官集の内容比較
(靈山法印定圓筆本) (新大納言(爲氏)自筆本)
音の ひゝきはすくに[を(水戸本「お」トアリ)と] ありとも こゑを ゆへ(水戸本「え」トアリ)を 名を 人をもよをして らは(本マヽ) 近を もよを(水戸本「お」トアリ)[さ]れて をのかねを てにをはの字也
日かよふ言 物いひて いは日 給日 たかひに わひしく よ日せ うく日す 思日 うつろ日 にほ日 よは日
一 書哥事
〓(本マヽ)哥可披講斷(水戸本、朱ニテ「析」ト傍書セリ)之書一首之時三行三字
なにはつに さくや このはな ふゆこもり いまは はるへと さくや このはな 師説如此
書二首之時無定樣今案也
詠遠尋山花和謌
官名
一 書始草子事一 書始草子事
假名物置右枚々々同(本マヽ)左枚書始之舊女房所書置皆如此先人又用之清輔朝臣又用之或自右枚端書之伊房卿如此下官付此説摸漢字之摺本之草子右一枚白紙徒然似無其詮之故也 假名物多置右枚自左枚書始之舊女房所書置皆如此先人又用之清輔朝臣又用之或自右枚端書之伊房卿如此下官付此説摸漢字之摺本之草子右一枚白紙徒然似(定家本、コノ字ノ下ニ「無」アリ)其詮之故也
如狭衣物語[ハ]女(定家本「必」トアリ)自左枚書流例歟
一 嫌文字事一 嫌文字事
他人不然又先達強無比事只愚意分別之極僻事也親疎老少一人無同心之人尤可道理況且當世之人所書文字之狼籍過干古人之所用來心中恨之 他人不然又先達強(定家本、コノ字ノ下ニ「無」アリ)比事只愚意分別之極僻事也親疎老少一人無同心之人最所(定家本「可」トアリ)謂道理況且當世之人所書文字之狼藉過干古人之所用來心中恨之
緒之音 を[ちりぬるを書之仍欲用之] 緒之音 を[ちりぬるを書也(定家本「之」トアリ)仍私(定家本「欲」トアリ)用之]
をみなへしをみなへし
をとは山をとは山
をくら山をくら山
玉のを玉のを
をさゝ
をたえのはしをたえのはし
をく露をくつゆ
をのこ(今入)
を山田
風のをと
をくる
をんな
人のをこる
をうな[トモ云]
をろか
をかのへ
てにをはの詞のをの字てにをはの詞のをの字
尾之音 お[うゐのおくやま書之故也] 尾之音 お[うゐのおくやま書之故也]
おく山おく山
おほかたおほかた
おもふおもふ
おしむおしむ
おとろくおとろく
おきの葉おきのは
おのへの松おのへの松
花をおる花をおる
おりふしお(定家本、コノ字ノ上ニ「時」アリ)りふし
おとろへ
おいらく
おなし事
おつる
[事ノ]おこり
おとこ
おひ
おろそか
おくる
おきゐて
おりたつ
おうぬ
おふる
おみの衣
おはな
枝[むめかえ 松かえ ほつえ まつえ]枝[梅かえ 松かえ たちえ ほつえ しつえ]
たちえ
かたえ
ふるえ
笛[ふえ]笛[ふえ]
斷[たえ]斷[たえ]
消[きえ]
越[こえ]越[こえ]
聞えきこえ
見え見え
風さえ風さえて
かえての木かえての木
えやはいふきえやはいふきの
たえゝゝ(今入)
心え
えひす
まちえ
えあるましきこと
さかえ
えたる所
えぬ所
えふ
なにはえ
えそしらぬ
花のえ
すみのえ
三島え
もえき
そなえり
万えふ
きえかへり
方たかえに
近代人多ふゑとかく古人所詠哥あしまよふえを以之可爲證 近代人多ふゑとかく 古人所詠哥あしまえふひ(四字定家本「まよふえ」トアリ)を以之可爲證
うへのきぬうへのきぬ
不堪[たへす]不堪[たへす通用常時]
しろたへしろたへ
草木をうへをく[栽也]草木をうへをく[栽也]
としをへて
前[まへ]まへうしろ
ことのゆへことのゆへ
栢[かへ]栢[かへ]
やへさくらやへさくら
こゝのへのうちけふこゝのへに
さなへさなへ
おもへ
とへ[同答]とへ[同答]
こたへこたへて
おもへは
いにしへ(今入)
なからへ
いくへさくらん
物へ
ゐ中へ
いへる
かそへ
いへ[家]
かへりこと
たとへ
そへ
よそへ
なすらへ
たへなり
おへる
あへぬ
おまへ
いへとも
たくへて
あすさへ[人さへけふさへ諸事同之]
うちはへ
たかすへ
むへゝゝ
かよへる人
とりかへて
ゆへ
さへつる
こしへ[ゆきける]
物ならへる
にほへ
をしへ
つたへきく
方へ
おりはへ
さへけき
おのへ
おとろへ
し給へり
くはへて
ひかへ
ききたへ
まかへる
なこしのはらへ
あつすへ
うへにをく
心へ[是をゝ(水戸本「も」トアリ)かく]
かへし
すゑすゑ
ゆくゑ
こゑこゑ
こすゑこすゑ
繪[ゑ]
衞士衞士
ゑのこゑのこ
詠[ゑい朗詠]詠[ゑい朗詠]
産穢[ゑ]産穢[ゑ]
垣下座[ゑんのかさ]垣下座[ゑんのかさ]
ものゑんし[怨也]ものゑんし[怨也]
ゆくゑ(今入)
すゑしと思ふ
ゑふ
つゑ
こひこひ
おもひおもひ
かひもなくかひもなく
いひしらぬいひしらぬ
あひ見ぬあひ見ぬ
まひことまひこと
うひことうひこと
おひぬれは[おいぬれは又常事也]
いさよひいさよひの月[但此字哥之秀句之時皆通用]
にほひ(今入)
あふひ草
ねかひ
まとひ
うしなひ
いはひ
いひて
うたかひ
うくひす
うつろひ
よはひ
たかひに
但此字哥之秀句之時皆通用
藍[あゐ]藍[あゐ]
つゐに[遂に色にそいてぬへき]つゐに[遂に色にそいてぬへき]
池のいゐ池のいゐ
よゐのま[よひ又常事也通用也]よゐのま
おひ[ゐ]ぬれは[おいぬれは又常事也]
きゐる鶯(今入)
くらゐにつかせ給
たちゐ
なきさのゐん
くれなゐ
ゐ中へ
いり日
いくたの杜
いへ[家]
いのり
にしのたいにしのたい
鏡たい
天かい天かい
とうたい(今入)
佛たい
いつこ
いにしへ
いへり
いくへ
いのち
右事非師説只發自愚意見舊草子了見之 右此事[ハ]非師説只發自愚意見舊草子了見之
しほ
かほる
にほふ
にほとり
こほり
さほつ
いくしほ[不重(水戸本「審」トアリ)何とかくへきそ]
そほふね
そほふる
かきほ
まちとほ也
まちかほ
しほるゝ
天あふき(今入)[さすらふまよふ同こと]
あふひ草
あふきの風
まかふ[そふる]
にほふ
かそふる
そふる[いさよふ]
さそふ
かよふ
うつろふ
たくふ
つたふ
いろそふる
天をあふき
なからふる
人をとふ
神なひ[み]
うかへ[め]る涙
なす[そ]らへ
かなふ[む]
あはれひ[み]
さや[は]く
いつく[こ]
すさふ[む]
えらひ[み]
一 假名字かきつゝくる事 一 假名字書つゝくる事
としのう ちには るはきにけ りひ としのう ちには るはきけ(定家本「に」トアリ)け りひ
とゝせをこ そとやい はむことし とゝせをこ そとやい はむことし
如此書時よみときかたし 句を書きる大切よみやすきゆへ也 如此書時よみときかたし 句を書きる大切よみやすきゆへ也
としのうちに 春はきにけり ひとゝせを としのうちにはるはきにけりひとゝせを
こそとやいはん ことしとやいはん こそとやいはんことしとやいはん
假令如此書假令如此書
一 書謌事一 書哥事
知物樣之人稱故實態以上句之末下句行之上[ニ]書 知物樣之人稱故實態以上句之末下句行之上に書
さくらちるこのした風は さむから さくらちるこのした風はさむから
てそらにしられぬ雪そふりける てそらにしられぬ雪そふりける
如此書事雖有其説當時至愚之性迷而不辨上下句只付讀安可用左説 如此書雖有其説至愚之性〓(迷歟)而不辨上下句只付讀安可用左歟
さくらちるこのした風はさむからて さくらちる木の下風はさむからて
そらにしられぬゆきそふりける そらにしられぬ雪そふりける
眞名を書交字或は落字之時上句一行にたらすなれとも只如闕字其所置て次の行に可書下句之由〓
一 草子付色々符事和漢有假〓(令歟)[不重々(三字水戸本「不審々」トアリ、「不審々々」ナルベシ) 本マヽ] 一 草子付色々符(シルシ)事和漢有之假令
古今和謌集卷第二 如此之所也 古今和謌集卷第二 如此之所也
左枚書始其事時多付件枚清輔朝臣如此付者(水戸本、朱ニテ「先」ト傍書セリ)人左枚雖書之付不書右枚下官用之以右手引披依有便也 右枚書始其事時多付件枚[清輔朝臣如此付]先人左枚雖書之[付]不書右枚下官用之以右手引披依有便也
已上先人下官存之他人不同心 已上先人下官存之他人不同心
表紙裏書云
此事此廿餘年以來也人殊有在旨歟悉被書改大略皆えと書てへとゑと被弃歟と見ほとにふゑ絶(たへ)許[ニ]此字出來
齋藤(定家本、字形不明ナレド「美麗」ト推讀セラル)女房達は月次のえ見む又(定家本「五」トアリ)躰不具えあんなりと
すなほにして
そへうた
かそへうた
たゝことうた
なすらへうた
それまくら
ねてあかすらん人さへそうき
春哥上
袖ひちて
花とや見らん
おりけれは
とふひのゝもり
もゝちとり
道行ふりに
誰しかも
人の心にあかれやはせぬ
花見かてらに
まてといふに
春下
いささくら我もちりなむひとさかり
ことならは
みわ山をしかもかくすか
いさ(水戸本、「さ」ノ左上ニ圈點二個アリ)けふは くれなはなけの
こまなめて
おもふとち
夏哥
時鳥なかなく里
やよやまて
五月雨の(水戸本「そら」ノ二字アリ)もとゝろに よたゝなくらん
昔へや
秋哥上
このまよりもりくる月
いつはとは
かすさへ見ゆる秋の夜の月
いなおほせとり
いとはやも鳴きぬる鴈か
秋萩にうらひれをれは 山したとよみ
枝もたはゝ(とをゝ)に
ちるらんをのゝつゆしもに
冬哥
冬こもりける
離別哥
すかるなく
あさなけに
人やりの道
かきくらしことはならん
羇旅哥
かりくらしたなはたつめに
物名
うくひすとのみ
あなうめに
をかたまの木
我はけさうひにそ見つる
二條の后春宮のみやすん所と申ける時にめとにけつり花をさせりける
いさゝめに
心はせ
春霞なかしかよひち
涙河おきひん時や
戀哥一
あやめもしらぬ
ひをりの日
雲のはたてに
ゆたのたゆたに
むめのほつ(はつ)え
あはゆきのたまれはかてに
戀哥三
よるへなみ
世をうみへたに
戀哥四
ひきのゝつゝらすゑつゐに
思ひおもはすとひかたみ
戀哥五
雲もなくなきたるあさの
なにゝふかめて
さたののほる(人名)
しきのはねかきもゝはかき
こめやとは思物から
今しはとわひにし物を
なとか涙のいとなかるらん
哀傷哥
しつく花のいろ
色もかも昔のこさに
雜哥上
玉たれのこかめやいつら(水戸本、「ら」ノ左下ニ圈點アリ)
もとくたち(水戸本「り」トアリ)ゆく
さらぬわかれも
なとか我身をせめきけん
雜哥下
浪のさはきに風そしくめる
世の中のうけくにあきぬ
はしに我身はなりぬへら也
雜躰哥
短歌
えふの身なれは
のはへまし
やよけれは
旋頭哥
花まひなしに
誹諧哥
まめなれとなにそいよけく
そへにとて
第二十
ねてのあさけのしものふりはも
こよろきの めさし(水戸本、「し」ノ左下ニ圈點アリ)
けゝれなくよこほりふせる
此草子靈山宝印御房筆也見或人之以下付符之一事無之書歌多樣有之被書送人之時自然有廣略之不同歟仍今左移之其時弘安七年七月九日 文永三年四月下旬新大納言(爲氏)以御自筆本書寫之同點了努々不可他見
一 校了
元徳元年十月上旬之比於京都三條殿御所寫了
〓(本ノマヽ信歟)昌記之珍範

参考資料

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