漢字の使分け

公開 : 2005/06/19 © 平頭通

お気附きのお方もゐるかと思ひますが、此のサイトでは一般では使はれないやうな漢字の書き方を実施してゐます。茲では、此のサイトの漢字の使分けについて少々述べておきたいと思ひます。

読む為の漢字と書く為の漢字

日本では、昭和24年の「当用漢字字体表」制定以来、読む為の漢字と書く為の漢字に大きな差がなくなりました。其れでも、之繞の「うねり」や、「令・冷・領」等の「縦棒」にするか「点」にするかの相違などがあり、全く一様になつたと迄は言へないでせう。

英文字にも手書き文字と印刷文字があるやうに、漢字にも同様に手書き文字と印刷文字の区別が元々ありました。手書きの漢字は、楷書や行書や草書を主とする筆書が主流です。支那や日本の書家が残した書が筆書の手本として今も尚流布してをります。其の代表的な楷書の書体を「伝統的な楷書」と呼ぶ事にします。

「伝統的な楷書」は、漢字を無理の無い運筆で手書きの出来る書体です。ですので、漢字の書き様が篆書の書体の一部分を省略してゐたり、形が「口」から「厶」に変化してゐたり等、部分的な運筆の改良が施されたりもします。此のやうな「伝統的な楷書」は、一部は「当用漢字」に取込まれた字体も在りますが、時代の流れで忘れ去られてしまつた漢字も少からず存在するやうです。「伝統的な楷書」の実例を確認するのであれば、神社や仏閣に立てられた古い石碑を見られる事をお薦めします。特に漢文で刻まれた碑文などには、模範的な楷書の漢字が見られる事でせう。併し乍、近年の碑文ですと、行書や草書も怪しい字形で書かれる事がありますので、あまり参考には出来ないと思はれます。又、書道の教科書に誰某筆と掲載された写真なんかも「伝統的な楷書」の実例として相応しい事でせう。「王羲之」なんかお薦めです。

手書きの文字は、文字を書く早さに影響される為か、徐々に省略されて行く傾向があります。漢字で究極の省略は草書ですが、ひらがなと草書が交ぜ書きされてゐると、区別がし難くなりますし、更に連綿が加はると現代人の殆どは読解できないと思はれます。何故さうなるかと云ふのを考へるに、結局、自分自身が後で読返して判ればいいと思つて書くと草書のやうな書体や字形の省略が発生する訣なのです。逆に他人に読んで貰ふ為に書いた漢字の書体は、一つ一つの文字が確りと区別できるやうに書く傾向がありますが、其れでも楷書の書体が限度で、康煕字典体は、科挙の試験回答を書く時ぐらゐしかなかつたやうです。

片や、印刷文字のはうは、先づ他人に読んで貰ふ事を主眼に置きます。ですので、一つ一つの文字が独立してゐたはうが読解し易くなります。又、文字についても、或る程度一定した品質が保持されてゐたはうが読み易くなります。漢字の場合は文字を構成する偏や旁などの形が常に一定の状態を保つてゐるはうが良いのですし、漢字の意味を特定し易くする為には、出来る丈古くから使はれて来た形を保持してゐたはうが良いのです。幸ひにして漢字には『康煕字典』と云ふ一つの資料が存在します。此の字典に使用されてゐる見出し字を参照して作られた字体を特に、所謂康煕字典体と呼んでゐます。此のやうな文字を印刷字体として使用してゐれば、文字同士の関聯性も把握し易いでせうし、若し解らない文字に出くはしても、字引を引けば調べる事も可能です。ですので、印刷に使用される文字は、読まれる事が第一ですから、一点一劃が確りと表現される傾向があります。

書く為の漢字と読む為の漢字には、此のやうな差異のある事を先づは理解する必要があります。

字体と書体

字体は、漢字の字形に対する抽象的概念を言ふのださうですが、字体に使用される用語は、「正字」「異体字」「俗字」「略字」「古字」「譌字」「同字」ぐらゐでせうか。皆、明朝体の活字で表現が可能な漢字です。又、書体はと言ふと、「篆書」「隷書」「楷書」「行書」「草書」や、「金文」「甲骨文」などが在ります。「金文」や「甲骨文」は別としても、「篆書」から「草書」に至る迄の漢字は一文字一文字が「正字」の字体に対応するやうになつてをります。唯、文字集合としては「楷書」の文字数が最大で其の左右が山形に文字数を減らして行くやうな状況になります。之を字形で把握すれば、「楷書」の書体を明朝体に変換すると「俗字」になる場合があり、「行書」や「草書」を明朝体に変換すると「略字」になる事もあると理解する事が可能になります。「俗字」や「略字」などの「異体字」が判れば、其れに対応する「正字」は判ります。詰り、「正字」の筋が確りと通つてさへゐれば、どのやうな字形を用ゐようが必ず「正字」が導かれるので、読んで理解する事が可能になる訣なのです。

文字コードの漢字

以上を踏まへて、文字コードの漢字を見てみると、「異体字」しか表現できない漢字が在るかと思へば、「正字」と「異体字」とが別々のコードポイントに割当てられてゐたりと、とてもぢやありませんが、麗しい体系に整理されてゐるとは申せません。ですので、例示字体云々に拘らず、「正字」も「異体字」も共に全く同じ漢字として扱ふ事にしてをります。ですが、殆どの場合は、「略字」などの「異体字」を使用する事にしました。何故かと言ふに、基本として最も使用されるべき第1水準の漢字の殆どが「略字」で規定されてしまつてゐるからです。詰り、基本に忠実たれの精神です。其れでも納得の行かない部分はあります。其の点は独自の判断で書記すやうに心掛けてをります。御参考までに以下に列挙しておきます。

衝突した漢字

以下に此のサイトで使分けてゐる漢字を一覧にしました。略字が本来の正字と衝突してゐる漢字です。

  1. 正字と略字が衝突してゐる漢字(其の一)「弁」「辨」「瓣」「辯」「辮」
  2. 正字と略字が衝突してゐる漢字(其の二)「予」「豫」
  3. 正字と略字が衝突してゐる漢字(其の三)「余」「餘」
  4. 正字と略字が衝突してゐる漢字(其の四)「欠」「缺」
  5. 正字と略字が衝突してゐる漢字(其の五)「芸」「藝」
  6. 正字と略字が衝突してゐる漢字(其の六)「灯」「燈」
  7. 正字と略字が衝突してゐる漢字(其の七)「缶」「罐」
  8. 「同音の漢字による書きかえ」の関聯

正字と略字が衝突してゐる漢字については、以上の例以外にも「虫」や「糸」や「浜」や「体」や「医」など、数へ上げればきりがないのですが、どれも本来の意味で使ふ事はさうさう無いので「略字」としての意味で使ふ事にしてゐます。「同音の漢字による書きかえ」については、富山いづみさんが纏めて下さつてをります。此の書換へも明かに漢字同士の衝突が起つてゐますから、本来の漢字を使用するのが筋でせう。

其の外に、正字のはうを中心に使ひたいと思つた文章では、適宜正字を使ふやうにしてゐる程度でせうか。

代名詞や接続詞

代名詞は、漢字で書ける語なら漢字で書きます。

「かう(斯う)」や「さう(然う)」や「どう(如何)」などの副詞は、一往、仮名の侭で記します。

接続詞も、書けるものは漢字で書くやうにします。

(候文でもないのに「候共」なんて言葉は使はないけどね)

其の他

「あふ」(ハ行四段活用)
物事が一致する「合ふ」、人と人が「会ふ」、親しい人に「逢ふ」、嫌な物事に「遭ふ」、偶然に「遇ふ」、
「ある」(ラ行四段活用)
普通は「在る」、何かを所有して「有る」、軽い意味で「ある」、
「いふ」(ハ行四段活用)
具体的な語は「言ふ」、軽い意味なら「云ふ」など大まかに。但し、漢字はどちらも同じ字義。
「うかがふ」(ハ行四段活用)
物を訊く時や訪問する時の敬語「伺ふ」、様子や状況を「窺ふ」、
「おもふ」(ハ行四段活用)
普通は「思ふ」、感情を込めて「想ふ」、
「きく」(カ行四段活用)
普通は「聞く」、注意して「聴く」、誰かに何かを「訊く」、
効能が「効く」、役立ちの「利く」、
「だけ」(副詞助詞)
普通は「丈」、前後の語句が漢字なら「だけ」、
「たしか」(様態)
通常は「慥か」「慥かに」、何かを確認して「慥める」、其の他「確り(しつかり)」
「たづねる」(ナ行下二段活用)
他人に何かを「尋ねる」、他人の住居に「訪ねる」、
「つく」(カ行四段活用)
通常は「附く」(「附属」「受附」)、つけわたす時は「付く」(「納付」「給付」)、
何処かに「着く」、仕事に「就く」、明りが「点く」、幽霊が「憑く」、
物で「突く」、嘘を「吐く」、餅を「搗く」、鐘や羽根を「撞く」、判断できない時は「つく」
「つらなる」(ラ行四段活用)
通常の和語は「連なる」、列席する時は「列なる」、
「べき」(助動詞)
漢字表記は「可き」だが、通常は仮名書きの「べき」を使用。文語の終止形は口語では消滅してゐる為、連体形終止となる。坐りが悪いので、「べきだ」「べきである」「べきです」と書く。
「ほか」(名詞)
普通は「外(ほか)」、其れ以外に「其の他(そのた)」、
「まで」(副詞助詞)
普通は「迄」、前後の語句が漢字なら「まで」、
「みる」(ラ行四段活用)
普通は「見る」、TVや映画などは「観る」、調査の意味を含めて「視る」、軽い意味なら「みる」、
診療は「診る」、看護は「看る」、
「れん」【聯】
漢語では「聯合」「聯関」「聯結」「聯珠」「聯鎖」「聯想」「聯隊」「聯弾」「聯邦」「聯盟」「聯絡」「聯立」「関聯」、漢詩に使ふ「聯句」「聯詩」「一聯」、略語で「ソ聯」など、
其の他は【連】を使ふ。
「わけ」(名詞)
通常は「訣」、翻訳の意は「訳(やく)」、元から別の漢字だが、明治の頃から既に混同してゐた。
「ゐる」(ワ行上一段活用)
普通は「ゐる」、軽い意味も「ゐる」、合成語は「居合」「居合せる」「居住ひ」「居候」「居丈高」など漢字で、
「をさめる」(マ行下二段活用)
中に入れて「収める」、統治して「治める」、上位の人に物を「納める」、遺骨を「納める」、習ひ事を「修める」、

まあ外にも色々と在ると思ふけど、明かな場合を除き仮名書きを含めて適当に使分けてゐる感じでせうか。一往こんな処ですが、気が附いたものを適宜追加して行きます。以上。

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