音には母音と父音との別あり。又、清音と濁音との別あり。
母音は聲帶の振動によりて發生するものにして、其の發生するに當り、口腔に觸れ、又は舌・齒・唇等に妨げられて、變化を受くることなきものなり。「あ」「い」「う」「え」「お」の五音は母音なり。
父音には、聲帶の振動によりて發生するものと、これによらずして發生するものとあれども、いづれも、口腔・鼻腔に於て、或は舌・齒・唇等によりて、種々に變化せらるゝものなり。
五十音圖に於て、加行より和行までの諸音は、母音と父音と結合したるものなり。
清音は聲帶を振動せずして發生し、濁音は聲帶を振動して發生す。
わが五十音圖にては、便宜上、「カ」「サ」「タ」「ハ」の諸行を清音と稱し、「ガ」「ザ」「ダ」「バ」の四行を濁音と稱す。
「は」「ひ」「ふ」「へ」「ほ」の假名は、語の中と下とにあるときは、「わ」「い」「う」「え」「お」の如く呼ぶことあり。これを轉呼音といふ。例へば、
いは (岩) | くは (桑) | いはふ (祝) |
かひ (貝) | たらひ (盥) | あひて (相手) |
すふ (吸) | たゝかふ (戰) | かふ (買) |
いへ (家) | こたへ (答) | かへる (歸) |
おほし (多) | かほ (顏) | にほひ (匂) |
發音しにくき語は、發音し易きやうに言ひかふることあり。
之を音便といふ、音便には次の四種あり。
高き山 | 高い山 |
寒き日 | 寒い日 |
つきたち | ついたち |
さきはひ | さいわひ |
買ひて | 買うて |
拂ひて | 拂うて |
よろしく | よろしう |
いたく | いたう |
勝ちて | 勝つて |
取りて | 取つて |
戰ひて | 戰つて |
飛びて | 飛んで |
住みて | 住んで |
死にて | 死んで |
左の文の假名に誤あらば、正せ。
「戰ひ」「戰ふ」「恥ぢ」「恥づ」といふ語は、今は「戰い」「戰う」「恥じ」「恥ず」の如く發音すれども、昔の發音に從ひて、「戰ひ」「戰ふ」「恥ぢ」「恥づ」と書するを常とす。
かくの如く、昔の發音のとほりに、假名を用ふるを假名遣といふ。
假名遣の誤り易きものは左の如し。
「わ」の假名は語の中と下とにあるときは、「は」と紛るゝことあり。この場合に「わ」の假名を用ふる語は大略左の如し、
あわ (泡) | あわつ (周章) | かわく (乾) |
くつわ (轡) | くるわ (廓) | くわゐ (慈姑) |
しわ (皺) | たわむ (撓) | |
よわし (弱) | いわし (鰯) | |
ことわざ (諺) | ことわり (理断) | |
さわぐ (噪) | さわやか (爽) | |
うわる (植) | すわる (坐) |
左の文に假名の誤あらば、正せ。
「ゐ」の假名は、語の上にあるときは、「い」と紛れやすく、語の中と下とにあるときは、「ひ」と「い」とに紛れ易し。「ゐ」の假名を用ふる語を擧ぐれば大略左の如し、
ゐ (井) | ゐもり (蠑螈) | |
ゐ (居) | ゐなか (田舍) | ゐざり (躄) |
とのゐ (宿直) | もとゐ (基) | くらゐ (位) |
ゐ (堰) | ゐぜき (堰) | |
ゐ (藺) | くわゐ (慈姑) | あぢさゐ (紫陽花) |
ゐ (猪、亥) | ゐのしゝ (猪) | ゐのこ (豕) |
まゐる (參) | ひきゐる (率) | |
あゐ (藍) | くれなゐ (紅) |
語の下に「い」の假名を用ふるは、名詞には、「かい」(櫂) といふ語あり、動詞には「老い」「悔い」「報い」の三語あり。又、「き」「し」の音より轉じたる音便の語にて、「さきはひ」(幸) を「さいはひ」、「つきたち」(朔) を「ついたち」「高き」を「高い」、「深し」を「深い」といふ類はすべて い の假名なり。
左の文に假名の誤あらば、正せ。
動詞の語尾に「ゆ」の假名を用ふるは、「老ゆ」「悔ゆ」「報ゆ」の三語 (也行上二段活用) と「見ゆ」「聞ゆ」「越ゆ」「冷ゆ」「覺ゆ」「聳ゆ」「煮ゆ」「絶ゆ」「消ゆ」「費ゆ」「焚ゆ」「榮ゆ」「生ゆ」「冴ゆ」「凍ゆ」「殖ゆ」「餧ゆ」「潰ゆ」「愈ゆ」「見ゆ」(まみゆ)「吠ゆ」「萌ゆ」(クゆ)「肥ゆ」「映ゆ」(ハゆ)「萌ゆ」「魘ゆ」(おびゆ)等の語 (也行下二段活用) とにして、「う」の假名を用ふるは「植う」「飢う」「据う」の三語 (和行下二段活用) のみなれば、其の他の動詞の語尾の「ゆ」又は「う」の如く發音せらるゝは、「教ふ」「堪ふ」「救ふ」等の如く。すべて、「ふ」の假名なり。
音便の假名の「く」「ひ」「む」より轉じ來れるものは、「よろしう」「寒う」「戰うて」「買うて」「ませう」「だらう」「行かう」「みよう」等はすべて「う」の假名なり。
左の文に假名の誤あらば、正せ。
「え」の假名を用ふる語は、大略左の如し。
え (柄) | ひえ (稗) | ふえ (笛) |
ぬえ (鵺) | さゞえ (榮螺) | はえ (鮠) |
え (兄) | え (江) | え (得) |
ゑ の假名を用ふる語は大略左の如し。
ゑ (餌) | ゑ (繪) | ゑそ (鱛) |
ゑふ (醉) | ゑむ (笑) | こゑ (聲) |
ゑる (彫) | ゑぐる (刳) | ゑぐし (醶) |
すゑ (末) | こずゑ (梢) | すゑもの (陶) |
つゑ (杖) | つくゑ (机) | いしずゑ (礎) |
ゆゑ (故) |
又、動詞の語尾に「え」の假名を用ふるは「得」と「見え」「聞え」等の也行下二段活用の語とにして、「ゑ」を用ふるは「植ゑ」「飢ゑ」「据ゑ」の三語のみなれば其の他の動詞の語尾の「え」の如く發音せらるゝは「教へ」「堪へ」「救へ」等の如くすべて「へ」の假名なり。
左の文に假名の誤あらば正せ。
「を」の假名は語の上にあるときは「お」と紛れ易く (「お」は語の中と下とにあることなし。) 語の中と下とにあるときは、「ほ」と紛れ易し。「を」の假名を用ふる語は大略左の如し。
を (小) | をぢ (伯父・叔父) | をば (伯母・叔母) |
をとこ (男) | をんな (女) | をつと (夫) |
をひ (甥) | をとめ (少女) | あを (青) |
を (雄・男・夫) | ををし (雄々し) | いさを (功) |
を (尾) | をろち (大蛇) | とを (十) |
みを (澪) | さを (竿) | みさを (操) |
を (緒) | をどし (縅) | うを (魚) |
を (苧) | をけ (桶) | をさ (筬) |
をか (岡) | をかし (可笑) | をがむ (拜) |
をこぜ (鰧) | をぎ (荻) | をの (斧) |
をり (折) | しをり (栞) | しをる (萎) |
をしへ (教) | をし (惜) | をしどり (鴛鴦) |
をち (遠) | をとつひ (一昨日) | をとゞし (一昨年) |
をさむ (治・收・修) | をさなし (幼) | をさゝゝ (大抵) |
をどる (踊) | をめく (叫) | をはる (終) |
まをす (申) |
「ふ」の假名の「を」に紛れ易きものは左の如し。
あふぐ (仰) | あふぐ (扇) | あふひ (葵) |
たふす (倒) |
左の文に假名の誤あらば、正せ。
「ぢ」の假名を用ふる語は大略左の如し。
ねぢ (螺旋) | もみぢ (紅葉) | ふぢ (藤) |
あぢ (味・鰺) | すぢ (筋) | ひぢ (臂) |
うぢ (氏) | なんぢ (汝) | かうぢ (麹) |
くぢら (鯨) | なめくぢ (蛞蝓) | かぢ (舵) |
わらぢ (草鞋) | あぢさゐ (紫陽花) | ちゞみ (縮) |
左の文に假名の誤あらば、正せ。
「ず」の假名を用ふる語は大略左の如し。
すゞ (鈴) | すゞ (錫) | すゞし (凉) |
すゞき (鱸) | すゞめ (雀) | すゞり (硯) |
すゞな (菘) | すゞしろ (蘿蔔) | みゝず (蚯蚓) |
ねずみ (鼠) | かず (數) | きず (傷) |
くず (葛) | もず (百舌子) | かならず (必) |
はず (筈) | はずみ (機) | なずらふ (準) |
左の文章に誤あらば、正せ。
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