マイクロソフトの新フォントについて

公開 : 2005/08/04 ; 改訂 : 2005/10/05 © 平頭通

先日の新聞で、マイクロソフト社が新しい基本ソフト(オペレーションシステム)の開発の完了と同時に同梱の日本語漢字フォントの字体に変更を加へる事を決定したと報道されました。私自身は漢字制限に反対し正字を主軸とする漢字の体系に戻すべきであるとの立場ですので、其の見地から此の件について少々論じてみようと思ひます。

新フォントに関聯する経緯

事の発端は、旧国語審議会(現在の文化審議会国語分科会)が2000年12月8日に答申した「表外漢字字体表」にありますが、更に元を正せば"JIS X 0208"の1983年の改定にまで遡る事が出来ます。此の「表外漢字字体表」に基づいて"JIS X 0213"と呼ばれる規格の例示字体が2004年に変更になりました。以下に時系列を示しておきます。

2000年1月20日
"JIS X 0213:2000"のJIS規格(X0213で検索して下さい)で、既存の第1水準と第2水準との図形文字に加へ、新しく第3水準と第4水準とが制定される。
2000年7月31日
No.228 "Japanese Graphic Character Set for Information Interchange --- Plane 1", No.229 "Japanese Graphic Character Set for Information Interchange --- Plane 2" としてISOの規格に追加される。(参照 INTERNATIONAL REGISTER OF CODED CHARACTER SETS TO BE USED WITH ESCAPE SEQUENCES)
2000年12月8日
旧国語審議会が「表外漢字字体表」を答申し、「常用漢字」以外の1022字の「印刷標準」の字体と22字の「簡易慣用」の字体とを公表する。
2004年2月20日
「表外漢字字体表」の答申を受けて"JIS X 0213:2004"の規格として「追補1」を発表し、168字の漢字の例示字体の変更と、第3水準に10字の漢字の追加とを実施する。
2004年4月13日
No.233 "Japanese Graphic Character Set for Information Interchange, Plane 1 (Update of ISO-IR 228)" としてISOの規格に追加される。
2005年7月29日
マイクロソフト社が新しい基本ソフトの開発に併せて、約150字の漢字を"JIS X 0213:2004"の規格に基づいた字体に変更すると報道で発表される。

"JIS X 0213:2000"

之まで情報交換用のJIS規格として作成された符号化文字集合の"JIS X 0208"では、第1水準と第2水準の漢字が規定されてゐました。この規格では、1983年の改定(略して"83JIS")で、一部の図形文字が簡略化された例示字体に改変されてをり、此れ迄、改変された侭の状態で情報交換等の分野で活用されてゐました。2000年に新しく規定された"JIS X 0213"では、この"JIS X 0208"を土臺にして、第1水準と第2水準と新たに定めた第3水準の漢字や非漢字とを第1面に置き、更に第4水準の漢字を第2面に置く事で多数の漢字を追加する事が可能となりました。此の時は、まだ第1水準や第2水準の字体には手が加へられてはゐませんでした。又、"JIS X 0213"の規格を受けて、其の内容がISO規格として登録されました。

「表外漢字字体表」

「表外漢字字体表」で「簡易慣用」と定められた22字
唖 頴 鴎 撹 麹 鹸 噛 繍 蒋 醤 曽 掻 痩 祷 屏 并 桝 麺 沪 芦 蝋 弯
上記「簡易慣用」に対して「印刷標準」として定められた22字
啞 穎 鷗 攪 麴 鹼 嚙 繡 蔣 醬 曾 搔 瘦 禱 屛 幷 枡 麵 濾 蘆 蠟 彎

「表外漢字字体表」は、「常用漢字」以外の1022字の「印刷標準」の字体と、22字の「簡易慣用」の字体とについて、其の漢字の字体を定めたものですが、其の方針としては、ほぼ、之迄の書籍等に依る印刷実績を追認した形となつてゐるやうに見受けられます。詰り、表外字は所謂康煕字典体を基本とする事を認めたと見てほぼ間違ひないでせう。字種は1022字在り、字音や字訓に基づいて五十音順に配列されてあります。其の内、特に注意したい点は、「3部首許容」と表現されてゐる之繞と示偏と食偏です。之等は、「印刷標準」とされてゐる字体では、所謂康煕字典体となつてゐますが、「常用漢字」の字体で採用されてゐる一点之繞等の偏旁でも許容されると〔字体表の見方〕の5項目に明記されてゐます。二点之繞も一点之繞も、同等に扱ふ事を謳つてゐるのです。又、〔字体表の見方〕の4項目には「デザイン差」と称して、別字形の存在を示唆する米印が附けられた字体もあります。

当然ですが、"JIS X 0213:2000"の規格では、"83JIS"の因習に依り多くの簡略字体が採用されてゐますが、其れとは逆の状況になつてゐるのが理解できると思ひます。因みに「惧・懼」「臈・臘」は、「表外漢字字体表」の中で夫々「別字扱い」されてゐます。

"JIS X 0213:2004"

例示字体の変更が行はれた168字
逢 芦 飴 溢 茨 鰯 淫 迂 厩 噂 餌 襖 迦 牙 廻 恢 晦 蟹 葛 鞄 釜 翰 翫 徽 祇 汲 灸 笈 卿 饗 僅 喰 櫛 屑 粂 祁 隙 倦 捲 牽 鍵 諺 巷 梗 膏 鵠 甑 叉 榊 薩 鯖 錆 鮫 餐 杓 灼 酋 楯 薯 藷 哨 鞘 杖 蝕 訊 逗 摺 撰 煎 煽 穿 箭 詮 噌 遡 揃 遜 腿 蛸 辿 樽 歎 註 瀦 捗 槌 鎚 辻 挺 鄭 擢 溺 兎 堵 屠 賭 瀞 遁 謎 灘 楢 禰 牌 這 秤 駁 箸 叛 挽 誹 樋 稗 逼 謬 豹 廟 瀕 斧 蔽 瞥 蔑 篇 娩 鞭 庖 蓬 鱒 迄 儲 餅 籾 爺 鑓 愈 猷 漣 煉 簾 榔 〓 冤 叟 咬 嘲 囀 徘 扁 棘 橙 狡 甕 甦 疼 祟 竈 筵 篝 腱 艘 芒 虔 蜃 蠅 訝 靄 靱 騙 鴉
此の内、〓印の部分には"1-47-64"の面区点に規定された「屡」の正字体が這入る。
「UCS互換」の漢字とされた10字
倶 剥 叱 呑 嘘 妍 屏 并 痩 繋

旧国語審議会の答申を受けて、2004年に規定された"JIS X 0213:2004"では「追補1」として、「表外漢字字体表」の字体に合せて168字の例示字体に変更を加へてゐます。又、其の内10字は、元の区点の字体を「UCS互換」の漢字として保存して、第3水準に本来の字体が10字分加へられる事になりました。当初"83JIS"に準拠する形で作成された"JIS X 0213:2000"でしたが、「表外漢字字体表」が出来た為に"JIS X 0213:2004"では変更を餘儀無くされてしまひました。規格は之で完成したと言へるでせう。"JIS X 0213:2004"の規格の是非を論じる場合は、「表外漢字字体表」の答申に基づいて追補された事を踏まへて、「表外漢字字体表」の規定がどうなつてゐるのかをよく理解して論じなければならないと考へます。又、"JIS X 0213:2004"の規格を受けて、其の内容がISO規格として登録されました。

そして"JIS X 0213:2004"の規格に準拠する形で今回のマイクロソフト社に依る約150字に及ぶ字体変更の報道がなされたと理解できます。

当方の見解

私自身としては、先に述べた通り漢字制限には反対の立場を取ります。正字体でも略字体でも伝統的な楷書体でも、之まで在つた漢字を使へるのならば、使用実績に沿つた使ひ方が出来れば其れだけでいいと考へてゐます。「常用漢字」の新字体と雖も、漢字であれば、其れは使へるはうが良いのであり、漢字制限を反対する立場としては、其の字体にも或る程度の理解は示してをる処です。

今回の報道を時間的に遡つてみると、変化の発端は旧国語審議会が答申した「表外漢字字体表」にあると考へられますが、当然ですが、此の答申は、現在の出版物等で実際に使はれてゐる「表外漢字」の内、主立つた漢字の字体を規定した字体表ですから、現状追認として間違ひのない代物です。之はウロコとかの問題もありますが、大体において、所謂康煕字典体に準拠した字体になつてをります。其の意味では、旧国語審議会が作つたにしては問題の少い字体表であると思ひます。

併し、問題はJIS規格で使用されてゐる例示字体との不整合にありました。OCR読取り等の条件を通過する為に"83JIS"で多くの例示字体を簡略化した図形文字に変更を加へてしまひました。其れが為、字引には出て来ない多くの文字を創出してしまつた点が、今尚データ交換等の分野に大きな影響を及ぼしてゐます。「OCR読取り」等と聞くと、「当用漢字」制定当時の国字問題で「ライノタイプ」や「タイプライタ」や「印刷活字」等の技術で多数の漢字が取扱へない事を理由に漢字制限に踏切つた当時の国語審議会を思ひ起します。技術的な問題は、将来必ず技術で乗切る事が出来ます。技術の低さを理由に言語表現を制限する必要はありません。其れだけは断言できます。更に、出自の不明瞭な略字を使ふよりは、字引で調べる事が可能な所謂康煕字典体が普通に使へるはうが遥かに良いと考へます。所謂康煕字典体の主軸を確たるものとした上で、其の他の字形との関聯を示す事が出来れば十分でせう。

今回、"JIS X 0213:2004"の規定で、例示字体が字引で調べる事の出来る字体に変へられた点に加へて、同規定に依る字体包摂の考へ方や、「表外漢字字体表」に示された「3部首許容」と「デザイン差」等の説明を元にすれば、今回の字体改変が、文字表現にとつて大きな問題となる事は少いと考へられます。従つて、既存の"83JIS"の字体でも許容の範疇になるものが多く存在します。

其の意味で、私は今回の字体の改変には一定の理解を示します。併し、中には捻くれ者がゐて、「パソコン略字」ぢやないと困ると主張する人々や団体もゐるやうです。一度出てしまふと、中々変へ辛いのが書き言葉の特徴の一つですが、其れが行過ぎると、略字等の字体を「正しい文字」と勘違ひさせる要因になる事が在ります。地名や特に人名に顕著に現れます。以下に、其のやうな主張に対して反駁を加へておきます。

反駁文

一部の反対意見について反駁しておきます。

其の一

先づは、2005年7月29日14時35分に出た読売新聞の記事より「混乱大丈夫?次期ウィンドウズで漢字150字形を変更」から、

新しいJIS漢字の字形を反映させたためで、今の「ウィンドウズXP」で使われている「葛」「辻」「飴」「蝕」「逗」などは基本的に表示・印刷できなくなる。

此の内、「辻」「飴」「蝕」「逗」は、「表外漢字字体表」で説明されてゐる「3部首許容」なので、例示字体が変るだけで許容の範疇になります。「葛」は、「表外漢字字体表」の1章前文の3項目の(3)に「印刷文字字形(明朝体字形)と筆写の楷書字形との関係」で、図(8)に示されてある字形なので、簡略化された字体のはうは「楷書字形」であると判断されます。

反面、昨年10月の合併で生まれた「奈良県葛城(かつらぎ)市」は、正式な市名に「葛」の字を使ったため、何らかの手当てをしない限り、市の名前を正確に印字できない事態に追い込まれる。

「楷書字形」を正式の文字としてしまつた「奈良県葛城市」に問題があると考へます。「東京都葛飾区」が本来の文字で表示出来るやうになつたと言ふのですから、之迄「葛飾区」が行つて来た措置を手本にするか、「表外漢字字体表」の答申に基づいて「葛城市」の正式字体を示す条例を公布するかすれば良いのではないでせうか。

其の二

はい次、「唯々諾々のもうぐだぐだ」の上から二番目より、

JISとMSの横暴により、私の姓がWindows Vistaから排除されようとしている。「しんにょう」の左上の「点」が一つか二つかは、大半の人にとってはどうでもいい問題かもしれないが、それを氏名に持つ人間にとっては、アイデンティティの根幹に関わる問題である*1(現にこれまで何度か私の姓が点が二つの「しんにょう」で表記されようとしたことがあり、そのたびに私は厳重に抗議し修正を要求してきた。)。確かに伝統的には「しんにょう」の「点」は二つだっただろうし「正字」もそう定められており、その遵守を求める声も理解できなくはない。しかし、(他の漢字文化圏でも同様の問題はあるかもしれないが)日本語の通常の使用においては正字と俗字の境界は曖昧であり、俗字だからといってその使用を一義的に排除しようという社会的コンセンサスは形成されていない。そもそも「正字」というものを国家が定めるということ自体、問われるべき問題であり、このことは表外漢字を用いて子の名前を付けようとして出生届けの受理を拒まれ、その拒絶の違法性が争われた最決平成15年12月25日民集57巻11号2562頁でも問題とされた。JISに関しては、多少の俗字にもコードを割り振ることが、それほど困難であるとは思えない。これまでコンピュータ上で用いられており、正字よりも使用範囲の広い俗字を排除することは問題があるのではないか。

結論から申しますが、之は一点之繞と二点之繞の問題になりますから、現在の文化庁文化審議会国語分科会が国語審議会の頃に答申した「表外漢字字体表」の説明の中にある〔字体表の見方〕の5項目を、先づはよく読んで下さい。「3部首許容」とはつきり書いてあります。又、一点之繞の場合は、明朝体やゴシック体における字形と、楷書体などの手書き文字の字形との間にも相違が見られるのが現実です。其の点も確りと認識しておいて下さい。御自身のお名前に直接影響があるやうに書かれてありますから、結構切実に受止めてお出でなのでせうが、其れならば、之まで二点之繞の漢字が打出せなかつたお名前の持ち主はどうなるんでせうか。其の点も考慮に入れて、若し必要であると結論するのであれば、文化庁文化審議会国語分科会宛に「厳重に抗議し修正を要求して」下さい。

私としては、辞典や辞書や字引にちやんと掲載されてゐて、一般の印刷物での使用実績のある字体ならば当然歓迎します。

其の三

はい次、「鉈の切れ味、カレー味」の7月29日 金曜日[PC]意味ねぇじゃんから、

要約すると悪いのは、M$ではなくてJIS

正確に言ふと、"JIS X 0208:1983"詰り"83JIS"で大幅に改変された例示字体が此の問題の根本になります。

M$が「日本の漢字文化を反映させる方向」を模索ってのは、まぁよしとして。その日本の漢字文化ってなによと。

「日本の漢字文化」ッてなんなんでせう。話が広過ぎます。取敢へず、白川静博士の本でも読んで下さい。

伝統的?現在使っている漢字をそんな理由で消せるんですか?あんたら名字に「葛」の字が入ってる人間にどう説明すんだ。「あんたの字はおかしいから無しね。」ってか?7080の爺さん婆さんにはその字に歴史ありといえるんだぞ?「あなたの書いてきた文字は略字で正しくありません」か?相当な人数いると思うんだがねぇ。

略字を書くのは別に構はないんぢやないですか。手書きの文字にはさう云ふ書き方も実際にあるんですからね。「葛」については、"83JIS"の例示字体の場合、「表外漢字字体表」の中で「楷書字形」とされてゐますから、「明朝体字形」との関聯で考へればいい事です。

諸悪の根源らしい「文化庁文化審議会国語分科会」って何やってるんだ?世間を知らない学者さんなんていらねぇよ。PCとか現状とかをしっかり考えることが出来る人を選んでほしいね。まったくの税金泥棒だな。どっちも使えるようしとけ。

諸悪の根源は、"83JIS"を規定した財団法人日本規格協会のはうぢやないんですかね。「鴎」「祷」「涜」等、根拠に乏しい簡略化された字体をJISコードの例示字体にしてこんな状況を作つてしまつたんですから。

其の四

はい次、「希美貴 回転系」の2005-07-29 真剣に呆れた。より、

もちろん略字しか表示されない今のフォントにも十分問題はありますが、略字のでないフォントも同じくらい価値の低いものだと言うことになぜ気付かないのでしょう?

此処で出て来る対比で「略字」と「略字でない」があり、どちらも価値が低いとしてゐるやうです。漢字字体の価値は、其の使用実績にあると私は考へます。ならば、印刷物に依る使用実績のある字体のはうが、「略字」より価値が高いのは当然の事です。

「どれが適切か迷わなくなる」とか、間違った字体を使用するのはその人間の問題であって選択肢の多いこと自体の問題ではないと思います。間違った表記をしないようにするのは、コンピュータで文章を書く人間・それを添削する人間の責任でしょうし、間違った表記をしないようにするために学校という教育機関が存在しているのではないでしょうか?

森鴎外の「鴎」の字は、本来偏の部分が「區」になります。其の著書等の印刷物に使はれてゐる文字や、字引のカモメの字は「區」になるはうが使はれてゐますが、"83JIS"で規定されてゐる字体では「鴎」しか出せません。「どれが適切か迷わなくなる」と云ふのは、例へば「區」のカモメと「区」のカモメが在つた時、どちらの字体が適切な字体であるのか迷はなくなると言つてゐる訣で、其れは一人一人の人間の問題と言ふよりは、日本語自体の問題であると考へます。学校で教はるのは精々「教育漢字」や其れ以外の一部の「常用漢字」に限られます。今回論じてゐるのは「常用漢字」や「人名用漢字」以外の「表外漢字」についてですから、学校教育は論外です。

今後略字が表示されないのであれば、略字が正式名称になっている地名・人名・固有名称などは表示・印刷される価値がないとでも言うつもりなのでしょうか?こんなにも横柄で馬鹿げた変更は無いと思います。

価値が無いのではなく、適切な字体が在つて、其の周りに許容される字体が在ると云ふ構図です。略字が排除されてゐると考へるのは妥当ではありません。逆に略字には之迄JISコードに採用されてゐた略字以外に膨大な数が存在してゐます。其の一部がJISコードの例示字体から外されたと言つても、其の他の略字については之まで通り例示字体からは外されてゐる訣です。JISコードに採用されてゐた略字とさうでない略字との間にどれ程の価値の差があつたのか私には疑問です。

両方を表示・印刷させるということが最善であるはずなのに、あえてそうしないのはなぜなのか?自分たちの意見が通ればそれでいいのか?迷うことがなくなるから?迷わない代わりに正解も選べない以上、無意味だと思います。

本当の正解は字引に載つてゐます。之まで字引にも載つてゐない略字を例示字体にしてゐたJISコードに根本的な問題があつたとは考へられませんか。之からは、迷つたら字引で確認するだけでいいんです。

其の五

はい次、「別館 はまぐりだいあり〜」の正確にしたつもりであっても…(2005-07-29 21:35:19) より、

私の普段使う漢字 (地名 ※) の中にも、対象の漢字が含まれているので、他人事ではないですね。(※ 正式なものと略字が、ともに見受けられるのが現状。)

最大の疑問は、なぜ両方が収録されないのか、ということ。略字でないと不都合が起こる場合のあることは明らかなのですし、選択できる状態にすべきだと思います。

記事の例にもあるように、正式な市の名前に略字を採用しているような場合 (「奈良県葛城(かつらぎ)市」) もあるわけですし……

地名には、正式な字体が決められてある名称と、俗称のやうな名称と二種類に分けられます。正式な字体が決められてゐる名称の場合、各種自治体での対応が必要になる場合等あると思ひますが、俗称は適宜使へる字体を使へばいいとは思ひます。

「両方が収録されない」のは、同じ字音字訓字義を持つ字体を複数規定してどちらが適切な漢字の字体であるか戸惑ふやうな事のないやうにと云ふ意味合でせう。混乱の回避が理由です。まあ其れでも10字分は「UCS互換」として現在の「パソコン略字」が残されてゐます。

其の六

はい次、「当方見聞録」漢字150字形を変更(2005.07.29) より、

確かに,これまで表記できなかった字が表記できるようになれば便利かもしれません.

便利になると言ふ以前に、之まで適切な字体が表示できなかつた状況其のものが不便だつたと言へます。

でも,逆に,これまで表記できたものが表記できなくなれば,奈良県葛城市のように困った状況になってしまうわけです.その意味では,「インターネットのホームページでも書籍でも、同じ字体で読めるようになる」というのはおかしいんじゃないんですかね・・・・・・.

書籍とインターネットの字体の整合は、固有名詞ではなく、通常の語彙における漢字の字体を指して表現されてゐると見るべきでせう。略字は略字であつて、使ふ使はないは個人の判断ですが、適切な字体とは呼べません。

その主張だったら,これまでの字形を認めながら,新しい字形を認めるべきじゃないのかな.まあ,両方の変換候補が出てきたら,結局どっちなのか分からないなんてことになってそれはそれで混乱するのかもしれないけど^^

まあ、御自身でツッコミを入れてある通りと申し上げる外ありません。今迄、混乱してゐた字体を整合させたと理解するべきでせう。

其の七

はい次、"May I be happier tomorrow!"の2005-07-30 23:13より。

これ、表記のルールをちゃんと決めておかないと混乱するような気がする。

表記のルールはきちんと決められてゐます。取敢へず"JIS X 0213:2004"と「表外漢字字体表」の規定をザッとでも読んでみて下さい。

例えばシフトJIS→富士通JEFのコード変換にWindows Vista用とそれ以外用を用意しなければならないとかいった必要が出てきそうな予感。

JISコードの第1水準と第2水準とに準拠したコード体系であれば、一対一でコード変換が可能です。「富士通JEFのコード」も其の内の一つに数へられさうです。問題は、独自のコード体系を持つ文字集合ですが、例へば「今昔文字鏡」の場合、既に『大漢和辞典』の全ての文字が此の文字集合に含まれてゐますから、其の文字との関聯附けは可能だと思はれます。逆に"JIS X 0213:2004"だけの為に新にコード番号を振つてしまふかも知れませんね。

反駁の綜括

之まで見て来たやうに、今回の新フォントに"JIS X 0213:2004"を採用すると云ふ報道に対する反論には、「今まで使へてゐた略字の字体が使へなくなるのは困る」と云ふものと、其の解決の方法の一つとして「何故今まで使へてゐた略字の字体と新字体の両方を規定して呉れなかつたのか」と云ふものの二つになると思はれます。

抑々、略字が情報交換用の文字コードに規定されてしまつてゐた事に根本的な問題があるのを忘れてしまつてゐるのか、新しいJISコードのせゐにしてゐたり、文化庁文化審議会国語分科会のせゐにしてゐたりしてゐます。其の点、反論としては片手落ちでせう。其れから、現状ではパソコン等の電子計算機で表示できる字体と、書籍などの印刷物に使用されてゐる字体とに不整合があるのは事実ですから、十分混乱した状況にあると判断できます。この混乱を回避するには、どちらかに字体を合せなくてはなりませんが、実績では印刷物のはうが遥かに上です。両方の字体を規定した場合、現状の混乱状態を追認した形となり、其の内にあの略字も入れろ此の略字も入れろと歯止めが利かなくなる結果になります。文字コードは指定範囲が有限になつてゐますから、何れはパンクする事でせう。人名に強く固執するのも考へものです。

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