假名遣改定案について(その一)

一 改定の趣旨

昨大正十三年十二月二十四日文部省で開かれた臨時國語調査會は、滿場一致、假名遣改定案を可決した。

假名遣の改定は國語假名遣字音假名遣の兩者にわたつているが、その改定の主旨は、臨時國語調査會の發表した假名遣改定案のはじめにある左記の文で明らかである。

現今わが國に行われいる國語および字音の假名遣は、これを學ぶのに一方ならぬ苦心を要し、しかもあやまりなくつかいこなすことがなかゝゝ困難である。わが國民は、すでに漢字に苦しんでいるのに、そのうえ、むずかしい假名遣とゆう重荷を負うている。本會がさきに常用漢字を公にし、さらにまた假名遣の整理をはかつて、この改定案を發表するのは、文字の使用を容易にして國民教育の發達と國家文運の進展を促そうとするためである。

右にも述べてある如く、國語および字音の假名遣をあやまりなくつかいこなすとゆうことは、よほどむずかしいのであつて、教育者も被教育者もこの點についてはつねに多大の苦痛を體驗して來ているのである。しかも從來の假名遣は、その標準が或過去の時代の言葉の書きあらわし方におかれており、その過去の時代の言葉の書きあらわし方は、それらの時代の發音を基礎としているのであるから、發音の習慣の變つて來ている後世の人々が、昔と同じやうに言葉を書きあらわそうとしたところで、それは相當な苦心を重ね練習を積んだ上でなければ不可能である。器械的に昔の人々の書きあらわし方を覺えこみ、いわゆる假名遣の規則を暗記しているのでなければ、その目的を達することが出來ない。文字を知り假名を知つていても、假名遣の規則に縛られて言葉を書きあらわすに不便を感じ、しかも、その規則を覺えこむには多大の苦心を要するとゆうことは、いかにも不合理であるといわなければならぬ。現代の言葉の書きあらわし方はよろしく現代の發音の上に標準をもとめるべきのである。文字を知り假名を知り簡單な表記の通則を心得てさえいれば、どんなことでも自分の書こうとすることが書けるとゆうようにならなければ、教育上の效果も十分にあらわれないし、國民の精神上の負擔も輕くならない。便不便とか、利不利とかゆうような實際問題をはなれて、單に學術上ばかりから考えて見ても、言語と文字、言葉と書きあらわし方との關係はそうゆう風でなければならぬのである。假名遣の改定が教育上社會上の問題として取扱われるようになつたのは久しい以前からのことであるが、臨時國語調査會が、その成立の當初から、特にこの假名遣の調査整理を重要な事項の一と認め、愼重審議の末ここに具體案を發表して、長い間の懸案を解決するに至つたのは、國家社會のために同慶の次第である。

二 整理の方針および適用の範圍

臨時國語調査會が假名遣改定案を作成するに當つて、どうゆう方針によつたか、また改定假名遣がいかなる範圍に適用されるかは、次の凡例に明らかである。

凡例


現代の假名遣は、よろしく現代の言葉の發音に本ずいて定められるべきものであることは前に述べた通りである。しかし、現代の發音を標準とするにしてもいずれの地方の發音を標準とするかが問題となるが、本案では大體東京語の發音を標準としているのである。たとえば「菓子」「煉瓦」の如き、地方によつては「くゎし」「れんぐゎ」と發音するところもあるが、東京では「かし」「れんが」と發音するのが常である。すなわち東京語では くゎ ぐゎ が か が に發音されるから、それを標準にすれば字音假名遣改定案第二條の通り、「くゎ ぐゎ は か が に改める」とゆうことになつて來る。しかも、それが東京語だけにおける發音であるとすれば考慮の餘地もあるが、くゎ ぐゎ と か が とを區別して發音する地方と區別しない地方とは、これを全國的に見てほとんど相半するとゆう有樣であるから、そうゆう地方的發音をも參考すると、右のような改定は、一そう理由の強いものとなるのである。他の種々の點の改定についても同樣な注意が拂われてゐることは言うまでもない。

改定假名遣の適用範圍が現代文のすべてに及ぶべきのは當然である。口語と文語とで假名遣がちがうとゆうような不統一は許さるべきでない。現代文でないもの、古文とか中古文とかゆう類のものを適用範圍外においているのは、それ等は過去の約束の下に書かれているので、強いてこれを現代の假名遣で律するには及ばないからである。

凡例三の固有名詞およびその他特殊な事情のあるものとゆうのは、人名船舶名などの類や法令關係のもので容易に改められないものなどを含んでいる。

外國語の發音の書きあらわし方は國語字音の假名遣と同樣に取扱うことの出來ないものが少くないから、表記の通則以外の細目は別に規定することとなつてゐる

三 國語の表記に關する通則

國語の表記に關する通則は、表記上の大體の規則を示したもので、その條文は左の如くである。

第一條
國語の拗音を書くには や、ゆ、よ を右側下に細書する。
たゞし特別の場合にかぎり細書せずとも差支ない。
第二條
國語の促音を書くには つ を右側下に細書する。
たゞし特別の場合にかぎり細書きせずとも差支ない。
第三條
國語の ア 列長音は ア 列の假名に あ をつけて書く。
第四條
國語の イ 列長音は イ 列の假名に い をつけて書く。
第五條
國語の ウ 列長音は ウ 列の假名に う をつけて書く。
第六條
國語の エ 列長音は エ 列の假名に い をつけて書く。
第七條
國語の オ 列長音は オ 列の假名に う をつけて書く。
第八條
國語の ア 列拗音の長音は ア 列拗音の假名に あ をつけて書く。
第九條
國語の ウ 列拗音の長音は ウ 列拗音の假名に う をつけて書く。
第十條
國語の オ 列拗音の長音は オ 列拗音の假名に う をつけて書く。

注意一
外國語の拗音促音の書き方には通則第一條第二條を適用する。
注意二
外國語の長音は通則第三條以下の場合の「あ」「い」「う」のかわりに「ー」をつけて書く。

右の通則のうちで注意すべき點は、長音の表記に あ い う の三つを用いる方法を採用したことである。長音を書きあらわすのに長音符(引音符) ー を用いるのも一つの方法であり、あ い う え お の 五つを用ひるのも一つの方法であるが、臨時國語調査會では、その長短得失を審議して、前記の方法を採用することにしたわけである。

参考資料

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