山田孝雄校訂『神皇正統記』
例言
- 一、
- 本書の底本としては猪熊信男氏藏本を用ゐたり。これは徳富氏藏梅小路本の原本と思しく、
現存諸本中完備せるもののうちにて、古くして且つ正しき點多しと認めたるによる。但し、こ
の本にも誤脱少からず。これを訂すには第一に徳富氏藏應永本を以てす。これは底本につぎて
完備且つ正しき度の多きものなればなり。しかもこの應永本また誤脱少からず、それらの誤脱
は更に他の本を以て校訂せる點あり。その校訂に用ゐたる本は青蓮院本、白山本、故北畠治房
氏本、群書類從本等なり。
- 一、
- 底本は上(神代―宣化)中(欽明―堀河)下(鳥羽―後村上)の三册に分ちたれど、今、便
宜上、これを區別せずして通篇一卷とせり。
- 一、
- 底本を訂すには先づ應永本によること上にいへる如し。この場合には單に「補」若くは「訂」
と脚注に記す。その他の場合の補訂にはその本の名を加へて脚注に記す。かくてその補ひ又は
訂せるものには左旁に「○」を加へて示す。
- 一、
- 本文の訂正には一も私意を加へず、必ず證あるものによれり。
- 一、
- 底本は片假名を用ゐたるを、今すべて平假名にかへたり。
- 一、
- 底本に濁點なく、句讀點なし。今意を推して之を加ふ。又底本には御代々の記事のうちには
段落を分たず。今意を推して之を分ち以て讀了に便す。これらは一に校者の責任に歸す。
- 一、
- 底本の注は小字雙行にして加へたるものなり。今印刷するにあたり底本のさまにするを得ず
して括弧を以てその注なることを示すこととせり。
- 一、
- 底本には「シテ」を多くは「〆」とかけり。今それらをいづれも「して」の二字とせり。又
「廿」「卅」はいづれも「二十」「三十」にあらたむ。又「給」を「玉」とかき「磐」を「盤」に
つくること多し。それらも今改めつ。すべてかく改めたるものはその字の左旁に「○」を加へ
てこれを明かに示せり。
- 一、
- 引用文以外の行文中の「也」はすべて「なり」に改め書けり。而してその改めたるには左の
旁に「○○」を加ふ。
- 一、
- 底本假名遣の區々たる點あり。この故にそれらはすべて正しきに統一せり。その改めたる假
名にはいづれもその左旁に「○」を加へて示せり。その底本の誤れる假名は煩を厭ひて今は略
せり。
- 一、
- 底本になくしてしかも必要なりと認めたる場合に送假名をば便宜加へたり。その時はその左
の旁に「○」を加へ、脚注に「某加」とその旨を記す。
- 一、
- 底本には所々によみ方の假名を加へたり。今は漢字にすべて假名をつけたり。このよみ方は
神皇正統記の古寫本に存するものをつとめてとり、その他はなるべく、この時代若くは以前の
古典に證を求めたり。而して又正統記古寫本にあるものといへども採るべからぬものは他の正
しと思はるるものによれり。これらのよみ方は通途のものと異なる點少からざるべし。而して
これは余が前に正統記述義に出したるものを改めたる點も少からず。されど、なほ不備少から
ざるを見る。將來一層の精撰を施さむことを期す。
- 一、
- 裏書は前に出したる本には除きしが、これは本文の某所に説く所の意を證明せむが爲に加へ
しものと思はるるふしあれば、恐らくは著者再治の際に加へしものと思はる。今これをすべて
採録せり。但し、これにはよみ方を加へず。
- 一、
- 本文下の脚注は主として校訂に關する事實の略記なり。ただ二三、本書が誤謬を傳へたる點
を指摘して讀者の注意を促したるものあり。
- 一、
- 底本目次なし。今、校訂者の試みにつくりたるを加ふ。これは讀者に多少の便あらむかと思
ひてなり。
- 一、
- 附録は校訂者がこの正統記の精神と建武中興の本旨とを闡明せむとてかつて公にしたるもの
を便宜取捨して編成したるものなり。
- 昭和九年七月二十日
- 校訂者識
本文
(省略)
讀者の爲に
神皇正統記の本領については從來の説多くは肯綮にあたらず、又この正統記の力點たる建武
の中興の本旨についても皮相の觀をなすもの少からず。ここにこれらの缺陷を補はむとして、
本書の讀者の爲に蛇足を加ふること次の如し。
奧附
- 神皇正統記
- ★★ 定價四十錢 停
- 昭和九年十二月十五日
- 第一刷發行
- 昭和十七年十二月二十日
- 第十一刷發行(五千部)
- 出文協承認
- ア360015號
- 校訂者
- 山田孝雄(やまだよしを)
- 發行者
- 岩波茂雄(東京市神田區一ツ橋二丁目三番地)
- 印刷者
- 白井赫太郎(東京市神田區錦町三丁目十一番地)
- 發行所
- 岩波書店(東京市神田區一ツ橋二丁目三番地)
- 配給元
- 日本出版配給株式會社(東京市神田區淡路町二丁目九番地)
- 印刷・製本
- 精興社印刷(東京四一)
- (桂川製本)
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