「裏声で歌へ君が代」の場合

今囘は小説です

しばらく黙つて聞いてゐた梨田が、同じやうに苦笑ひしてゐる林に言つた。「たしかに台北近辺の国府軍さへこつちのものにしてしまへば、見込みはかなりありますよね。テレビ局を押へて台湾語放送だけにすれば、ずいぶん効果的でせう。うんと気勢があがる」

正仮名遣の作家、丸谷才一氏の書いた小説から引用しました。此の作家は、正漢字に對しては、自分が「気に入らない」か氣に入るかで使ふ文字を選んでゐるさうで、獨特な文字遣をしてゐます。一往、氏の主張を尊重して、漢字も原文の儘引用しておきます。小説の内容は臺灣を舞臺にした政治活劇です。文章は口語體で書かれてゐるので、敷居は低いと思ひます。

其れでは例によつて。「黙つて、言つた」は、四段活用動詞の連用形が促音の「つ」に變化した音便です。

「ゐた・ゐる」は、「居た・居る」です。ワ行上一段活用動詞です。

「やうに」は、「樣に」の事で、樣の字音をひらがなで書いた形になります。

「苦笑ひ」は、ハ行四段活用動詞の連用形の形をした名詞です。

「さへ」は、助詞です。「は、へ、を」と同じ助詞なのですが、何故か「現代かなづかい」では改變されてしまひました

「こつち」は、「此方(こちら)」の砕けた音便表記です。

「しまへば」は、「しまふ」の假定形、ハ行四段活用動詞です。

「押へて」は、ハ行下一段活用動詞ですが、「押さへて」と書くと送り過ぎなので要注意

「でせう」は、「です」の未然形に意思推量の「う」が附いた形の言葉です。「でせう・でした・です」と活用します。

以下は參考程度。
「裏声」(うらごゑ) の正字は、「裏聲」
「黙つて」は、正字で「默つて」
「台北」(タイペイ) は、正字で「臺北」、臺灣最大の都市
「近辺」は、正字で「近邊」
「国府軍」は、正字で「國府軍」
テレビは、television の略語
「台湾」の正字は、「臺灣」
ずいぶんは、漢字で「隨分」
「効果的」の正字は、「效果的」
「気勢」の正字は、「氣勢」


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